2011年3月9日(水)、ANAインターコンチネンタルホテル東京にて、「2010年度大川賞・大川出版賞・研究助成贈呈式」が開催されました。
大川賞とは、情報・通信分野における研究、技術開発および事業において顕著な社会的貢献をされた方の労に報い、その功績を表彰するとともに、情報・通信分野のさらなる発展と啓蒙に寄与することを目的とした国際的な賞です。
本年度は、量子コンピュータ、量子情報処理の分野において世界的に多大な貢献をされたスタンフォード大学教授 兼 国立情報学研究所教授の山本 喜久博士と、IBMワトソン研究所フェローのチャールズ H.ベネット博士に贈呈されました。
山本博士は、世界の量子コンピュータの研究をリードする日本人科学者です。量子光学を用いた先駆的研究を推進し、単一光子光源による量子暗号通信技術の実証的研究、原子核もしくは電子スピンを利用した量子情報処理技術の基盤研究、励起子ポラリトンのボース・アインシュタイン凝縮の基礎研究などにおいて、世界をリードする数々の業績を挙げてこられました。2009年に、我が国が3年から5年で世界のトップを目指す先端的研究を支援する、内閣府「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)」が創設されましたが、その30件のプロジェクトの一つに山本博士がリーダーとして先導する「量子情報プロジェクト」が採用されました。これには、量子情報処理の研究分野で「ナショナルチーム」を作りたいという山本博士の強い思いが込められており、「4年後に量子コンピュータ実現のイメージを確定する」ことを目標に掲げ、総勢300名にも及ぶ大プロジェクトが現在進行中です。
ベネット博士は、量子物理学を情報・通信を取り巻く問題に適用し、情報の物理学的基礎の究明に尽力されています。物理学と情報科学の接点を解明するだけでなく、特に量子計算のみならずセルオートマトンや可逆コンピューティングなどの研究に対しても大きな役割を果たしており、さらにジル・ブラッサール博士とともに、量子物理によって秘密が保証されているメッセージを送る方法を開発しました。博士は、量子暗号のコンセプトの提案をはじめ、近代量子情報理論の創始者の一人として、量子情報通信分野の発展に対して多大な貢献をされ、現在も活躍されています。
大川賞は、本年度を含め、これまでに国内外で34名の方々に贈呈されています。
また、贈呈式の翌日の2011年3月10日(木)には「量子情報国際研究センターキックオフシンポジウム」(主催:情報・システム研究機構 国立情報学研究所、共催:大川財団)において、大川賞受賞者による記念講演会がありました。
大川賞 山本 喜久博士 |
大川賞 チャールズ H.ベネット博士 |
大川出版賞とは、情報・通信分野に関して技術の発展や社会的啓蒙に貢献のあった優れた図書について表彰するものです。
本年度の大川出版賞は、2冊の図書に贈呈されました。1冊目は、コンピュータを制御するプログラミング言語という形式的な記号系において、再帰性を今後どのように扱っていくのかということについての問題を提起し、国際的レベルの新しく深い知見を展開した「記号と再帰― 記号論の形式・プログラムの必然」(田中 久美子氏著・東京大学出版会 刊)。2冊目は、紙媒体を中心とする「本」からデジタル化による「電子書籍」へ転換していく中で、「読書」や「著作」、「出版」が今後どのように進化し、可能性を生み出していくのか、出版文化の今後をわかりやすく予測し多角的に論じた「電子書籍の衝撃― 本はいかに崩壊し、いかに復活するか?」(佐々木 俊尚氏著・ディスカヴァー・トゥエンティワン 刊)がそれぞれ受賞しました。
大川出版賞は、本年度を含め、これまでに55冊の図書に贈呈されています。
大川出版賞「記号と再帰― 記号論の形式・プログラムの必然」 |
大川出版賞「電子書籍の衝撃― 本はいかに崩壊し、いかに復活するか?」 |
研究助成は、情報・通信分野に関わる、基礎研究、通信・インターネット、コンピュータシステム、人工知能、バイオ、応用(理工系、医療、福祉、教育など)、人文・社会科学の分野において、優れた先端的な研究や社会的に有用な研究を行っている研究者に対して、助成金を贈呈するものです。贈呈式では、国内20名、中国・韓国7名の研究者に対し、研究助成金の贈呈を行いました。
米国の研究助成贈呈式は2010年10月13日(水)カリフォルニア州サンフランシスコ市のホテルニッコーサンフランシスコで開催、米国の主要大学の研究者6名に贈呈を行っております。
研究助成対象者の方々 |
埼玉大学 大学院 水野 和夫教授に「歴史的転換期の世界経済と日本の課題〜21世紀は陸と海とのたたかい〜」というタイトルでご講演いただきました。日本経済は21世紀の利子率革命にあり、「無限」の時代が終焉し「有限」の時代がはじまっていると語られ、ますます近代化のスピードが激化するなか、日本が抱える21世紀の課題について解説されました。
埼玉大学 大学院 水野 和夫教授 |
なお、2010年度大川賞受賞者につきましては、2011年3月10日の朝日新聞に掲載されました。
懇親会の模様 |